DV(ドメスティック・バイオレンス、英語表記:domestic violence)は、配偶者や恋人など親密な関係にある、またはあった者からふるわれる暴力である。「ドメスティック(domestic)」は「家庭の」を意味する言葉で「家庭内暴力」とも呼ばれる。
夫から妻に対する暴力が典型で、女性の被害者が多い。事実婚や離婚した元夫婦も対象となる。未婚の恋人間で起こる暴力は「デートDV」と呼ばれるが、同居を前提とするDV防止法では、必ずしも被害者が保護されるとは限らない。
DVの歴史
日本では、夫が妻を殴るといった家庭内暴力が昔から存在した。その背景には、家制度の名残である男尊女卑の風潮があったとされる。
戦前の家制度では、戸主である男性が絶対的な権力を有し、家族のメンバーを統率・扶養してきた。戦後は家制度が廃止されたものの、「家」の概念自体が完全に崩壊したわけではなく、妻が夫に尽くすべきであるという価値観も一部では根強く残った。こうした事情もあって、夫から妻に対する暴力は犯罪とされにくく、警察も家庭内トラブルについては「民事不介入」の立場を取ることが多かった。
一方で、性差別や男女格差が問題視される昨今、女性に対する暴力の一種であるDVへの批判も強まった。DVを不法行為と認定する判例も登場し、法律上の離婚原因と考えられるようになった。DV被害者を相談を受けたり、支援を行ったり、シェルターを運営したりするNPOの活動も注目を集めた。
こうした時代の変化に対応するため、2001年にはDV防止法(配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律)が施行。DV被害者の保護や自立支援態勢の確立を目的とし、裁判所における保護命令手続きが規定される。2004年、2007年、2013年に改正され、精神的暴力をDVに含める、夫婦だけでなく生活の本拠を共にする交際全般にも準用するなど、DVの定義や適用範囲が拡大されてきた。
DVの種類
DVには以下の種類がある。
- 経済的暴力…生活費の著しい制限、仕事の制限、無計画な借金など。
- 社会的隔離…交友関係の制限、外出の制限、実家や友人からの隔離など。
- 身体的虐待…殴る蹴るなどの物理的暴力、不健康な食事、医療の制限など。
- 心理的虐待…罵詈雑言、恫喝、無視(ネグレクト)、行動監視など。
- 性的虐待…性交強要、性に関連する侮辱など。
夫婦間ではなく、未婚の恋人間で発生するDVは「デートDV」と呼ばれる。物理的な暴力だけでなく、性交の強要や金銭の要求などもデートDVに含まれる。
DVと共依存
DVの背景には、被害者と加害者が共依存(英訳:co-dependency)の関係に陥っていることが多いと指摘される。
共依存とは、自分と特定の相手との関係性に強く依存し、その人間関係に束縛されている状態である。たとえば、アルコール依存症の夫を一生懸命支える妻は、一見すると献身的で愛情深く見える。しかし、妻は、夫が自分から離れられなくなっていることで無意識的に夫を支配し、そこに自己の存在価値を認めて心の平穏を得ている。夫が妻に頼り切っているだけでなく、妻が夫をアイデンティティの根拠としているのなら、夫婦の関係は共依存と診断される。自己評価が低く常に自信のない人が共依存に陥りやすい。
DVでも、妻が夫の暴力にさらされているにもかかわらず、「自分が夫の暴力をやめさせなければならない」「自分がいないと夫はダメになる」などと考え、第三者に頼らずに自力で状況を改善しようと努力するのは共依存とされる。DVは当事者同士での解決は不可能で、第三者の介入が必要である。それを妨げ、事態を深刻化させるのが共依存の問題である。
DVとコロナ禍
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、日本では2020年4月に緊急事態宣言が出された。これに伴って外出自粛やリモートワークなどが推進され、人々の在宅時間が増加した。経済的・精神的に追い詰められる人々も多く、社会全体にストレスが蔓延した。その影響から、女性が暴力被害を受けるDVの相談件数が増加した。
同様の問題は日本だけでなく世界各国で報告された。世界保健機関(WHO)などのチームは2022年6月16日、4人に1人の女性が男性パートナーからの暴力や強制性交などのDV被害に遭ったという推計を英医学誌『ランセット』に発表。コロナ禍によるさらなる状況悪化を懸念し、政府や地域社会に対して早急に対策を講じるよう訴えた。
DVをテーマにした作品
DVをテーマにした作品には、夫による妻の強姦を盗撮したというシチュエーションの『凄惨DV盗撮 家庭内レイプ映像』がある。人によってはトラウマとなる作品だろう。